朝日を拝むとき3「面接」

鷹野エクスペリエンスは、創業して間もない企業だ。鷹野の勧誘を受けて。元従業員の上野明雄の他、2名のスタッフが働いている。この規模ではまだ自社オフィスもなく、東京都内のレンタルオフィスを借りているだけだ。

「や、来たね」

哲太が辞表を出した日の13時。採用面接が始まろうとしていた。

「竹中さんから聞いたよ。もう吉嶋エンジニアリングを退職したんだってね。もしこの面接で、落ちてしまったら・・・とは考えなかったのかい?」
「別に落ちたら落ちたで構いません。自分のやり方で、奏汰のシステムを売るだけです」
「そうか。それじゃすっかり決意は固まったようだね。それじゃ面接を始めよう。・・・その前に」

鷹野はオフィス内に入り、雑誌を読んでいるスタッフをトントンと小突く。すると、そのスタッフは気だるそうにこちらに近づいてきた。
女性だった。髪は長く、片目が隠れている。面接は、オフィスの隣の小会議室で行われた。

哲太から正面位置に鷹野、そして隣に女性スタッフが座る。

「ブログ編集者の小出アンナさん。うちの一番の稼ぎ頭だ」
「小出です。今日はよろしく」

小出は、鷹野のように朗らかな雰囲気ではない。挨拶を手短に済ませて、すぐに本題へと入った。

「フーン、24歳大卒か。物覚えよさ気じゃん。ウチ来て何すんの?」

いきなりこんな質問が来るとは思わなかった。が、哲太はストレートに思いの丈を伝える。前職で奏汰が帰らぬ人となったこと。そして、その彼と交わした約束のこと。しかし、小出はとくに表情一つ変更することはなかった。

「・・・ま。何してもイイんだけど。うちには決まったワークスタイルなんてないしね。うちの社長が言うには、やっとよさ気な営業マンが入ってきそうだなって言ってたけど・・・2年かそこらで仕事投げ出しちゃう子に営業なんて務まるもんなのかなぁ~。どう、きみ根性はある?」
「自信はあります」
「へえ、証拠は?」

短い切り返しだが、小出の質問は鋭いところをついていた。根性があることを実証するためには、過去の実績から証明するしかない。しかしその過去が勤続2年。短いと思われているのだろう。哲太は少し回答する前に、間を置いてしまった。

「エピソードをいくつか用意してきました。前職で私は上司の手を離れ、1人で現場を任せてもらえる位には成長できましたが、そのためにまず結果を出して認めてもらうことが必要でした。在籍期間内に5件の大現場を成功させて、それだけで合計890万近くの売上になりました。正直なことを言ってしまうと辛くなったこともありましたが乗り越えれば一段と成長出来ますし、目標達成したときの充実感もありましたので、そこは根性でカバーしてきました。ところで私の退職理由は根性が続かなかったからではありません。むしろあの仕事を続けていればどんなに楽だったかなと思うんですよ」
「哲太くん、楽っていうのは?」

と、ここで鷹野が続きを促した。

「はい。やはり商材が豊富で、開発部のバックアップもしっかりしていて、頼りになる上司に恵まれていたと思います。
でも、やはり私は堀部のシステムのほうに未来を感じました。」
「そうか、でも、それなら吉嶋エンジニアリングでも売れたんじゃないの?」

哲太は、ここでむっとした表情になる。自分が勧めてきたんじゃないのかと心の底で呟いた。
そもそも吉嶋エンジニアリングは、堀部を苦しめた会社だ。反目することはあっても、新しい技術を上に提案するつもりはサラサラ無い。

しかし、ここで哲太は一度感情をリセットした。感情だけで動いている訳ではない。
奏汰のシステムは「ベンチャー企業だからこそ」輝く性質を持っている。

既存のアイテムを所持している前職の環境が「有→有」なら、今自分がチャレンジするのは「無→有」への変化。
前者は障害が立ちふさがるが、後者にはそれがない。これから自分や、上野が作り上げていくものだと哲太は確信する。

「堀部のシステムは、開発・メンテナンス手法が確立されている吉嶋エンジニアリングの商材に取って代わるものじゃありません。そして、元々ルールがガチガチに固められていた企業でこの商材の導入に挑戦するよりも、これから自分の力で環境を整えていくであろう御社のような存在がベストだと私は思っています」
「うん、なるほどね。僕もそうしたほうがいいと思うな。よく決断したね、どうだろう、小出さん?彼は本当に根性のない人間だろうか?」

意見を委ねられた小出は不機嫌な表情になる。

「・・・ハッ!」

何を屁理屈を。そんな乾いた笑いだった。

「あのさ、西田君。一時の感情に流されてるんだったら、やめといたほうがいいとあたしは思うんだ。その堀部君が作ったシステムってさ、ぶっちゃけどうなの?売れるシステムなの?」
「ええ、売れると思いますよ。実は今日、そのシステムを説明するために資料を印刷してきたんですよ」

哲太はバッグから、クリアファイルと提案書を渡した。

「システムの使い道って色々あると思います。例えば顧客管理や案件管理・出張管理、勤怠管理にプロジェクト管理、会計処理、在庫管理、タスク管理、グループで評価したり、人事評価に使用したり。今名前を挙げたような機能は、オーソドックスなものですが、業種や会社ごとに少しずつ微妙に違ってくるものですが、これらのシステムは、従来の商品と変わりません。堀部のシステムはこれら全てを取り揃えています。
さらに軽快さや柔軟性において右に出るものは居ないでしょう」

提案書に目を通し、小出は資料に目を通す。今までで、最も表情の変化が多かった。

「へえ、システムってこんな事まで出来るんだ?この提案書作るのに何日かかったの?」
「1日半です」
「1日半か」

彼女が哲太の言葉を復唱した意味がよく分からない。1日半が長いのか短いのか。
なんとなく嫌な予感がした哲太は若干、身震いする。

「分かった、とにかくすごいシステムなんだねコレ。うちには吉嶋エンジニアリングに住んでる上野さんも居るし・・・上手に行けば市場でイノベーションを起こせるかもしれない。面白そうじゃん」

哲太の不安は大きくなる。ほぼ予感が的中したというほうが正しいのかもしれない。

「でもねえ、西田くん。君は誰に何を売っているのかな?」

肯定の先には、暗い落とし穴が風音を立てて待っていた。

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朝日を拝むとき(仮)4

 

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